小さな町での手仕事を通して感じる「時代の大きな変化」。
SAVERは、私が大切にしたい価値観をシェアできる仕事です!
「海と史跡が美しい町の農家に八人きょうだいの長女として生まれ、今は四児の母として家事、育児、仕事をこなす女性」と聞いたら、多くの人が、自然を愛し、面倒見が良く、大らかで優しい母親の姿を想像するのではないだろうか。
大分・中津でハンドメイド雑貨の販売とスマホコーティングSAVERのサービスを手掛ける林博子さんは、まさにそんなイメージ通りの女性だ。中津への移住から積み重ねてきた小さな出会いと感動を丁寧に育て、振り返れば何か大きなものに導かれるようにたどり着いた母親としての境地に案内してくれたのは、小さな愛娘の笑顔だった。
林 博子(はやし ひろこ)
長崎県平戸市出身。純心女子高校を卒業後、長崎市の幼稚園勤務を経て大分県中津市の児童養護施設に勤務。結婚を経て現在はハンドメイド雑貨・アクセサリー「Ace(アケ)」を運営しながら、2020年2月からスマホコーティングSAVERを展開中。
長崎・平戸に生まれ、美しい海と農作物、動物に囲まれて育ち、シスターを目指して長崎市内のカトリック系の学校に通った後、大分・中津に移り、今ではすっかり中津に溶け込んだ林さん。実は、中津に来た頃は一人も知り合いがいなかったという。
「通った学校がカトリック系だったので、卒業後は系列の幼稚園に二年間勤めました。子供が好きなので楽しく働けたんですが、海辺の小さな町で育って迎えた中学、高校時代という多感な時期に、歴史あるカトリックの学校で長い寮生活を送ったためか、もっと広い世の中を見て社会を知りたいという気持ちも人一倍強かったんです。
同世代と比べても、私は世間の流行の話題に疎かったし、社会の仕組みやお金の扱い方もよく知らないと感じました。そんな時、大分の児童養護施設が職員を募集しているという話を親戚から聞いて、大分にやって来ました」
人生は小さなきっかけで変わるものだ。自身を「どちらかというと人見知りで、人間関係においては待つタイプ」と評する林さんにとって、中津での生活は「初めて体験する実社会」でもあり、当初は知らない土地、仕事、人間関係の三つになじむことが大変だった。
この頃はまだ、中津に永住することは考えていなかったものの、その後、婦人服を扱うセレクトショップに転職した林さんは、新しい事に敏感で、情報をシェアし合える中津の人たちに支えられ、縁ときっかけに恵まれていくうちに、自ら人生を積極的に耕していこうと心に決めた。
結婚、出産、育児と目まぐるしく過ぎていく歳月を経て中津に溶け込んでいった林さんに、ようやく少し立ち止まって人生を回想し、未来を展望するゆとりが生まれた。また、愛娘あけみちゃんの誕生で、ライフワークとして打ち込んでいきたい活動も少しずつ模索するようになった。
現在六歳のあけみちゃんは、心臓に重度の病気を抱えて生まれた。こんな偶然がなければ、一生、名前さえ聞くこともなかったであろう病名が、愛娘の成長につれて増えていく。大人でも理解できない難病を愛娘が抱えているという事実。
そして、大人でも重圧を感じる逆境が立ちはだかるほど、愛らしさ、おませぶり、茶目っ気を増していき、その笑顔で疲れた大人たちをも癒し、笑顔に変えるパワーを持つ愛娘。いつしか、林さんの毎日はあけみちゃんを中心に回るようになっていた。
ちょうどその頃、ご主人の仕事が転機を迎え、上の子供たちの入学、進学も重なって、林さんも仕事のあり方を見つめ直すようになった。
「人に喜ばれて、競争相手が少なくて、オリジナリティがあって、短時間で場所を選ばすに稼げる仕事」という条件を漠然と描いてはみたものの、簡単には見つからなかった。ちょうどその頃、陸上部で活動する長男が出場した駅伝大会で出会った友人から、SAVERというサービスのチラシをもらった。
「スマホのコーティング?どんなメリットがあるの?そんな疑問と興味が同時に湧いてきたのを覚えています。私はスマホのフィルムの縁にホコリや皮脂がたまるのが嫌で、子供たちにも清潔な環境でモバイル機器を使って欲しいと思っていたので、美しく画面を保護できる効果があるなら、まず私がやってみようと思いました」
林さんが感じたのは、SAVERだと画面が汚れても拭き取りやすく、劣化しやすいフィルムと比べてタッチ感や操作性が高まったことだった。また、ある日、林さんはスマホをアスファルトに落としてしまい、残念ながら画面を割ってしまったが、その割れ方は以前割れた画面とは違い、ガラスは飛散せず、修理費も安かった。
「前のスマホは一年に二回も割ったのを思い出して、SAVERはいい、って直感的に思いました。体験を通じて品質を理解できたこの出来事は、一年以上も一消費者として知っていたSAVERを自分の仕事の一つにしたいと位置付けた転機でもありました。また、十五分ほどで三千円を稼げて、小さな子供同伴でも、在宅でもできるSAVERの仕事は私が希望した条件を満たしていました。SAVERはあけみと一緒にいられる仕事で、あけみと過ごせる時間を増やせる仕事でもあります」。
二〇二〇年二月、林さんはSAVERの施工研修を受け、施工店となった。
実は林さんは現在、中津駅そばの洋服店で週に二日ほど働いている。林さんは中津に来てから趣味として布バッグ、コサージュ、花飾りなどを作り始め、特に三年前から作り始めたしめ縄は、六十名の参加者に作り方のレクチャーを行った経験もあるほどの腕前だ。
温かみのある手仕事で素材の魅力を引き出し、ライフスタイルアイテムとして表現する林さんの作風を理解してくれた店長が、林さんの作品を自分の店に置いてもよいと提案してくれたことがきっかけで、店内でSAVERの施工も行うようになり、パートで働く機会も得た。
「中津も平戸みたいに世話好きで助け合いを大事にする人が多いんです。町も小さいから、みんながほぼ同時に同じモノを知って興味を持っているし、熱しやすく冷めやすい面もあります。
だから商品、サービスに変化がないと飽きられて忘れられてしまうので、よく異業種コラボで情報交換をやっていて、私にも発信の場がいくつかあります。
SAVERはママ友や雑貨販売とは違う切り口のつながりを作ってくれて、少しずつ収入源の一つに育ちつつあるし、私の相棒にしたい仕事です。スマホは機械だから雑貨とは違うけど、『手作業で思いやりを込めて丁寧に仕上げる』という点では、私の中で同じ仕事だと捉えています。
嬉しいのは、家族はもちろん、平戸の両親もSAVERを理解して応援してくれること。SAVERはメリットが分かりやすいし、効果を実感しやすいから口コミが簡単で速いんです。その分、初対面のお客様と会う機会も増えてしまい、生来の人見知りの性格と久しぶりに戦っています(笑)」
SAVERの施工で林さんが好きな工程はクリーニングだ。洗浄液で画面を丁寧に磨き、カバーやケースも手入れする林さんの丁寧な作業は手慣れたものだが、内心、実は話題を探して緊張していることもあると言う。
「私って、目の前の作業に没頭して時間を忘れちゃうタイプなので、施工が無言で終わらないようにしたいんです。だから自分からもお客様との会話を盛り上げようと、たまにゲームのことを聞いたりするんですけど、質問するほど分からない答えが増えていって、あたふたすることも(笑)
コーティングはストップウォッチを持った時間との戦いで、いつもドキドキするけど、お客様の笑顔を見ると、やって良かったと安心します。施工中の会話を楽しめる余裕を作るのが、今の私の目標ですね」
手作りアクセサリーの販売とSAVERが少しずつ相乗効果を生み始め、インスタでもあけみちゃんの名前にちなんだ雑貨販売専用アカウント「Ace(アケ)」をオープンした林さんがSAVERの理念で気に入っているのは、保護フィルムに使われるガラスやプラスチックを削減して、ささやかながら地球環境の保護に貢献するというエコ活動の側面だ。
「手作りのイヤリングやピアスを販売していて、材料や成分、肌に触れる金属に関心を持つ人が増えたことを感じます。以前は『オリジナルの一点モノ』という希少性や緻密さを購入動機にされるお客様が中心でしたが、コロナ禍以降は、希少性や品質に加え、肌にアレルギー反応を起こさないサージカルステンレスを使用していること、往時の風合いをあしらったビンテージ風の質感を理由に買って下さるお客様も出てきて、雑貨がコミュニケーションのきっかけになっている手応えを感じます。
また、安全な装飾品を身に着けたい人、手作りのぬくもりで生活を彩りたい人、使った後のことまで考えて買いたい人が増えていて、時代の大きな変化が私の小さな手作りアイテムを通じて伝わってきます。つまり、単に稼ぐだけの仕事に終わらず、深い価値観を分かち合い、共感するための仕事をできているという充実感があります。
故郷の平戸の実家ではお米、玉ねぎを栽培していて、両親と妹が長年こだわってきた土作りを評価してネットで買って下さる遠方のお客様も出てきました。生産者や作り手が大事にしたい想いをダイレクトに発信できて、買い手も共感や賛同から応援の気持ちを込めて購入する時代の到来を感じて、『社会の動きってこういうことなのかな』と思うことも増えました」
今や人生の半分を中津で過ごし、中津を永住の地と決めた林さんが最近「将来、力を入れていきたい」と願うようになったのが、病気や障害を抱える子どもを持つ母親たちの支えになる活動だ。
「もちろん、子どもたちも苦しんでいます。でも、子供を満足に助けるための動きができずに苦しむ母親もいることはあまり知られていません。思いやりや相談で助かる部分もありますが、やはりお金や他者の支援がないと解決できない問題も多いのが実情です。広い世の中から見れば小さな世界に過ぎないかもしれませんが、当事者にはそれが全てで、それ以外のことを考える余裕も持てないほど大きな問題なんです。だから、私は大らかな心で向き合っていきたい。
レジ袋削減やSAVERでエコ活動が日常の小さな当たり前になったように、病気や障害を持つ子供たちへの理解と家族への支援ももっと当たり前にならないか、最近はしきりにこのテーマについて考えています。あけみが導いてくれた世界で出会った人たちの役に立ち、少しでもあけみの笑顔を人々の現実的な希望に変えていくことが、キリシタン大名の城下町として発展した中津で、私がシスターのような情熱と慈愛を胸に取り組んでいくライフワークなのかもしれません。
私に具体的に何ができるかは、まだ分かりません。でも、居場所でできることを一つずつ、少しずつやっていけば、必ず私がやりたいことに到達できると信じています」
小さな町で、小さな愛娘が導いてくれた世界に響き始めたささやかな福音は、林さんの手仕事を通じて、これからも多くの人々の心に共鳴の輪を広げていくことだろう。
(おわり)